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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「そこに埃がある、これを片づけろ、あれをしまえ、煮物が焦げつくぞ、雑巾がぐしゃぐしゃだ、それをこうしてあれをどうして」たんば老人はキセルでなにかの廻るようなしぐさをした、「――そうやってみんなをこき使い、きりきり舞いをさせたあげく、その男はどっかり坐って云う、――やれやれくたびれた、腰が痛くなった、ってね」
老人はそこでちょっと口をつぐんだ。話の効果をたしかめるようにではなく、その男をしっかり思いだそうとするかのように。そうしてやがて、含み笑いをし、ひどくゆっくりと頭を振った。
「これにはみんな呆れたね」とたんば老人は続けた、「まるで自分が一日じゅうこき使われたような口ぶりで、それがまたじつに感じの出ている調子なんだね、――やれやれくたびれはてた、くたくただ、腰が痛い」
辰弥はたんばさんがなんでそんな話を始めたのか、理解にくるしむといいたげな顔つきで、もちろん笑いもせずに聞いていた。
「みんなは蔭で、さんざん悪口を云ったものだ」と老人は続けた、「因業じじいだとか、厄病神だとか、早くくたばっちまえとかさ、ところが、――或るとき躯の調子がおかしくなり、医者に診てもらうと、腰椎カリエスだということがわかった」