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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「ごきげんだったよ」と弟は辞典を繰りながら、ぶっきらぼうに答え、振向いて辰弥を見た、「頼むから宿題ぐらいゆっくりさせてくれよ、おれは」
彼がそう云いかけたとき、戸外で人の声がした。どうやらこの家をきいているらしい、ええそこですよ、という女の声がし、すぐに戸口で「岡田さん」とおとずれる声が聞えた。辰弥が答えながらいって、障子をあけると、制服の警官が立っていた。
――とうとうきたな。
あにきがなにかやったな、と辰弥は直感し、急に呼吸が苦しくなった。警官はメモのような紙片を見ながら、岡田辰弥くんかとたずね、そうだと答えると、伸弥という兄さんがいるかときいた。
「はい、おります」
そう答えながら、辰弥は自分の顔色の変るのを感じた。
「兄はおりますが」と辰弥はかすれた声で続けた。「このうちには住んでいないんです、よそへ出てはたらいているんですが、兄がなにかしたんでしょうか」
「交通事故なんだ」
警官は辰弥の眼を避けるかのように、メモを見たままで云った。
「いま本通り一丁目の交番から連絡があってね、伸弥くんが小型乗用車にはねられたんだそうだ、向うからの電話連絡なんで」