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あんごしんにほんふどき

安吾新日本風土記

坂口 安吾

03 第二回 富山の薬と越後の毒消し≪富山県・新潟県の巻≫

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,916 字 · 46 页

青空文庫

「広島県の国境にちかい山中に山県郡加計という寒村がありましてね。二十何年の昔になりますが、身の丈よりも高いような草を押しわけて私がその山奥まで売りこみに行ったものです。冬になると何尺も雪がつもるような山奥です。ところが寒いさかりの二月のことでしたが、農家に泊めてもらったところ、家のどこにもタタミというものがなく、板敷の上にムシロをたった一枚しいて、それが寝床なんですね。センベイのようなフトンを一枚ひッかけて寝るのです。これにはおどろきました。しかし日本の農村は概してそんなものです。薬どころではありません」

売人はこう嘆く。ところが私が東京へ戻って新聞をひらいてみると、朝鮮の怪飛行機着陸という記事があって、これがなんと広島県山県郡は加計という山中ではないか。積雪七尺とある。今でも寒い山中なのだ。朝鮮の怪飛行機と同じように富山の売人もそういう山中へでかけているのである。よその国の怪飛行機が着陸し、飛行士が民家に寝泊りして東京と往復しておって、それが半年間も世間に気がつかれないほど人跡まれな山中なのである。ともかく富山の売人は一応それほどの山中まで足をのばす努力は忘れていない。