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あんごしんにほんふどき

安吾新日本風土記

坂口 安吾

03 第二回 富山の薬と越後の毒消し≪富山県・新潟県の巻≫

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,916 字 · 46 页

青空文庫

事の起りはそうであったに違いないが、今ではあまりにも違うのである。

毒消し売りの女が私に云った。

「毒消し売りの流行歌ね。あれ癪にさわるね。あれのおかげで町や村の子供たちが私たちをバカにして、毒消しいらんかネエ、なんてわいわい後を追ってくるし、大人は大人で歌を唄えば買ってやるなんて云いやがるさ。なんだこの野郎と思うわね。お金と友達だからジッと我慢しているろもね。こんげのボッコレ小屋に住んでるくせに威張るな。毒消しは売っていても、オレがくにへ帰ればオラトコには土蔵もあれば倉もあるがんだと思うわね」

腹立ちまぎれのせいで、終りの方は方言でまくしたてた。お金と友達だから我慢しているが、こんな破れ小屋に住んでるくせに威張るな、私がくにへ帰れば私のうちには土蔵も倉もあるわいという意味である。こんなタンカは誰しもちょッと切ってみたいであろうが、ざらに切れるタンカじゃない。われわれがくにへ帰ってみても土蔵も倉もないのだから、残念ながら仕様がなかろう。とにかくこういう村である。彼女らは土蔵も倉もあり、門構えもあって石の塀をめぐらした邸宅から毒消しを売りにでてくるのだ。