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さむはし

寒橋

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,416 字 · 36 页

青空文庫

などと良人に云ったことがある。それには時三が婿に来てから、おたみのようすがどことなくなまめかしくなり、時三になにか云われたりするとふと顔を赤くしたり、またしおのある眼つきでじっと見たりした。……いつか六間堀へ菊見にいったとき、思わずそのことを良人に云って、不愉快そうにそっぽを向かれたことがあるが。……父が病気になってからのようすを見ると、やはりそこにあたりまえでないものがあるような感じで厭だった。

「いいじゃないか、お父つぁんが気にいってるんだから、おたみだっていやいやしているんじゃあないし、気を揉むことはないじゃないか」

「あたしってやきもちやきなのかしら」

「あっさりしているほうじゃあなさそうだな」

「――憎らしい、あんたのせいよ」

「またそれか、よく飽きないものさ」

「だって本当なんですもの、あんたといっしょになるまえには夢にもこんな気持は知らなかったわ、こんな気持って、……本当に自分でもいやよ」

あんたのせいよと云う言葉は無根拠ではなかった。時三は日本橋槇町の「松葉屋」という、やはり袋物商をしている家の二男で、男ぶりもいいし職人はだで、近所の娘たちにずいぶん騒がれたというし、稽古にかよっていた歌沢の若い女師匠とは、かなり深いつきあいがあったということを聞いている。