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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
三
六月中旬の事であった。ある日仕事をしていると子供が呼びに来た。猫をもらって来たから見に来いというのである。行って見るともうかなり生長した三毛猫である。おおぜいが車座になってこの新しい同棲者の一挙一動を好奇心に満たされて環視しているのであった。猫に関する常識のない私にはすべてただ珍しい事ばかりであった。妻が抱き上げて顋の下や耳のまわりをかいてやると、胸のあたりで物の沸騰するような音を立てた。猫が咽喉を鳴らすとか、ゴロゴロいうとかいう事は書物や人の話ではいくらでも知っていたが、実験するのは四十幾歳の今が始めてである。これが喜びを表わす兆候であるという事は始めての私にはすぐにはどうもふに落ちなかった。「この猫は肺でもわるいんじゃないか」と言ったらひどく笑われてしまった。実際今でも私にははたして咽喉が鳴っているのか肺の中が鳴っているのかわからないのである。音に伴う一種の振動は胸腔全部に波及している事がさわってみると明らかに感ぜられる。腹腔のほうではもうずっと弱く消されていた。これは振動が固い肋骨に伝わってそれが外側まで感ずるのではないかと思うのである。