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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
すると今まで針のように鋭くなっていた自分の神経は次第に柔らいで、名状のできない穏やかな伸びやかな心持ちが全身に行き渡る。始めて快いあくびが二つ三つつづけて出る。ちょうどそのころに枕もとのガラス窓――むやみに丈の高い、そして残忍に冷たい白の窓掛けをたれた窓の外で、キュル、キュル/\/\と、糸車を繰るような濁ったしかし鋭い声が聞こえだす。たぶんそれは雀らしい。いったいこの寒い夜中をどんな所にどうして寝ていたのであろうか。今一夜の長い冷たい眠りからさめて、新しい日のようやく明けるのを心から歓喜するような声である。始めの一声二声はまだ充分に眠りのさめきらぬらしい口ごもったような声であるが、やがてきわめて明瞭な晴れやかなさえずりに変わる。窓の外はまだまっ暗であるが「もう夜が明けるのだな」という事が非常に明確な実感となって自分の頭に流れ込む。重苦しい夜の圧迫が今ようやく除かれるのだという気がすると同時にこわばって寝苦しかった肉体の端から端までが急に柔らかく快くなる。しばらく途絶えていた鳥の声がまた聞こえる。するとどういうものか子供の時分の田舎の光景がありあり目の前に浮かんで来る。