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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
丸善から三越へ回って帰る時には、たいていいつも日本銀行まで歩いてそこから外濠線に乗る。どうかして電車がしばらく来ない時には、河岸の砂利置場へはいってお堀の水をながめたり呉服橋を通る電車の倒影を見送ったりする。丸善の二階で得たいろいろな印象や、三越で受けたさまざまな刺激がこの河岸の風に吹かれて緊張のゆるんだ時に、いろいろの変わった形や響きになって意識の上に浮かび上がって来る。かねてから考えている著書を早く書き初めなければならぬと思う事もある。あるいは郷里の不幸や親戚に無沙汰をしている事を思い出す事もある。
しかしまた時として向こう河岸にもやっている荷物船から三菱の倉庫へ荷上げをしている人足の機械的に動くのを見たり、船頭の女房が艫で菜の葉を刻んだり洗ったりするのを見たり、あるいは若芽を吹いた柳の風にゆらぐのを見たりしていると、丸善だとか三越だとかいうものが世にもつまらない無用の長物だという気がする時もある。
電車に乗って帰って宅の門をくぐると、もうこんな事はすっかり忘れてしまって、それで自分の日曜日、あるいは日曜日の自分は消えてしまうのである。
(大正九年六月、中央公論)