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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
ある人は六尺もある筆の先へちょっと絵の具をくっつけて、鳥でも刺すようにして一点くっつけてはまたながめて考え込むというのである。この話を聞いているうちになんだか非常に愉快になって来た。そういう仕事をしている画家と、非常にデリケートな物理の実験をやって敏感なねじをいじってはめがねをのぞいている学者と全く兄弟分のような気がしておもしろくなって来た、そしてどういうわけか急におかしくなって笑い出すとT君もいっしょに笑い出してしまった。
それから二三日たってT君の宅へ行って同君の昔かいた自画像を二枚見せてもらった。それは小さな板へかいた習作であったがなるほど濃厚な絵の具をベタベタときたならしいように盛り付けたものであった。しかし自分ののっぺりした絵と比べて見るとこのほうが比較にならぬほどいきいきしていてまっ黒な絵の具の底に熱い血が通っていそうな気がした。
もっとも考えてみるとこのくらいの事は今始めて知ったわけではない。この自分の自画像がもし他人の絵であったとしたらおそらく始めからまるで問題にならないで打っちゃってしまうほどつまらないものかもしれない。ただそれが自分のかいたのであるがためにこんなわかりきった事がわからないでいたのをT君の像をながめているうちにやっとの事で明白に実認したに過ぎない。