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どんぐり

寺田寅彦随筆集 第一巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页

青空文庫

緑がかったスコッチのジャケツを着て、ちぢれた金髪を無雑作に桃色リボンに束ねている。丸く肥った色白な顔は決して美しいと思われなかった。少しそばかすのある頬のあたりにはまだらに白粉の跡も見えた。それで精一杯の愛嬌を浮かべて媚びるようなしなを作りながら、あちらこちらと活発に蝙蝠傘をさし出していた。上から投げる貨幣のある物は傘からはね返って海に落ちて行った。時々よろけて倒れそうになって舷や人の肩につかまったりした。そうして息をはずませているらしく肩から胸が大きく波をうっていた。楽手らはめいめいただ自分の事だけ思いふけってでもいるようにまた自分らの音楽の悲哀に酔わされてでもいるように、みんな思いつめたような暗い顔をしていた。滅びた祖国、流浪の生活、熱帯の夏の夜の恋、そんなものを思わせるような、うら悲しくなまめかしい音楽が黄色く濁った波の上を流れて行った。波の上にはみかんの皮やビールのあきびんなどが浮いたり沈んだりして音楽に調子を合わせていた。……淡い郷愁とでもいったようなものを覚えて、立って反対の舷側へ行くと、対岸をまっ黒な人とまっ黒な石炭を積んだ船が通って行った。