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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
萌黄地に肉色で大きく鶴の丸を染め抜いた更紗蒲団が今も心に残っている。頭がさえて眠られそうもない。天井につるした金銀色の蠅除け玉に写った小さい自分の寝姿を見ていると、妙に気が遠くなるようで、からだがだんだん落ちて行くようななんとも知れず心細い気がする。母上はもううちへ帰りついて奥の仏壇の前で何かしていられるかと思うとわけもなく悲しくなる。ねえさんのうちがにぎやかなのに比べてわが家のさびしさが身にしむ。いろんな事を考えて夜着の領をかんでいると、涙が目じりからこめかみを伝うて枕にしみ入る。座敷では「夜の雨」をうたうのが聞こえる。池の竜舌蘭が目に浮かぶと、清香の顔が見えて片頬で笑う。
この夜すさまじい雷が鳴って雨雲をけ散らした。朝はすっかり晴れて強い日光が青葉を射ていた。早起きして顔を洗った自分の頭もせいせいして、勇ましい心は公園の球投げ、樋川の夜ぶりと駆けめぐった。
義ちゃんは立派に大きくなったが、竜舌蘭は今はない。
雷はやんだ。あすは天気らしい。
(明治三十八年六月、ホトトギス)