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えいがじだい
寺田寅彦随筆集 第二巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第二巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:映画時代、子猫、解かれた象、相対性原理側面観、怪異考、比較言語学における統計的研究法の可能性について、化け物の進化、ルクレチウスと科学、蓄音機、亮の追憶、一つの思考実験、電車の混雑について、浮世絵の曲線、二十四年前、伊吹山の句について、池、路傍の草、備忘録、日本楽器の名称、Liber Studiorum、時事雑感。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 207,099 字 · 419 页
ことしの春寒のころになってから三毛の生活に著しい変化が起こって来た。それまでほとんどうちをあける事のなかったのが、毎日のように外出をはじめた。従来はよその猫を見るとおかしいほどに恐れて敵意を示していたのが、どうした事か見知らぬ猫と庭のすみをあるいているのを見かける事もあった。一日あるいはどうかするとそれ以上も姿を隠す事があった。始めはもしや猫殺しの手にでもかかったのではないかと心配して近所じゅうを尋ねさせたりした事もあったが、そうしていると夜明け方などにふいと帰って来た。平生はつやつやしい毛色が妙に薄ぎたなくよごれて、顔もいつとなく目立ってやせて、目つきが険しくなって来た。そして食欲も著しく減退した。
うちの三毛が変などろぼう猫と隣の屋根でけんかをしていたというような報告を子供の口から聞かされる事もあった。
私はなんとなしに恐ろしいような気がした。自分では何事も知らない間に、この可憐な小動物の肉体の内部に、不可抗な「自然」の命令で、避け難い変化が起こりつつあった。そういう事とは夢にも知らない彼女は、ただからだに襲いかかる不可思議な威力の圧迫に恐れおののきながら、春寒の霜の夜に知らぬ軒ばをさまよい歩いているのであった。