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やねうらのさんぽしゃ

屋根裏の散歩者

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年8月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,862 字 · 57 页

青空文庫

先ず目につくのは、縦に、長々と横えられた、太い、曲りくねった、大蛇の様な棟木です。明るいといっても屋根裏のことで、そう遠くまでは見通しが利かないのと、それに、細長い下宿屋の建物ですから、実際長い棟木でもあったのですが、それが向うの方は霞んで見える程、遠く遠く連っている様に思われます。そして、その棟木と直角に、これは大蛇の肋骨に当る沢山の梁が両側へ、屋根の傾斜に沿ってニョキニョキと突き出ています。それ丈けでも随分雄大な景色ですが、その上、天井を支える為に、梁から無数の細い棒が下っていて、それが、まるで鐘乳洞の内部を見る様な感じを起させます。

「これは素敵だ」

一応屋根裏を見廻してから、三郎は思わずそう呟くのでした。病的な彼は、世間普通の興味にはひきつけられないで、常人には下らなく見える様な、こうした事物に、却って、云い知れぬ魅力を覚えるのです。

その日から、彼の「屋根裏の散歩」が始まりました。夜となく昼となく、暇さえあれば、彼は泥坊猫の様に跫音を盗んで、棟木や梁の上を伝い歩くのです。幸なことには、建てたばかりの家ですから、屋根裏につき物の蜘蛛の巣もなければ、煤や埃もまだ少しも溜っていず、鼠の汚したあとさえありません。