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やねうらのさんぽしゃ

屋根裏の散歩者

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年8月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,862 字 · 57 页

青空文庫

ピッタリ身についた、濃い茶色の毛織のシャツ、同じズボン下――なろうことなら、昔活動写真で見た、女賊プロテアの様に、真黒なシャツを着たかったのですけれど、生憎そんなものは持合せていないので、まあ我慢することにして――足袋を穿き、手袋をはめ――天井裏は、皆荒削りの木材ばかりで、指紋の残る心配などは殆どないのですが――そして手にはピストルが……欲しくても、それもないので、懐中電燈を持つことにしました。

夜更けなど、昼とは違って、洩れて来る光線の量が極く僅かなので、一寸先も見分けられぬ闇の中を、少しも物音を立てない様に注意しながら、その姿で、ソロリソロリと、棟木の上を伝っていますと、何かこう、自分が蛇にでもなって、太い木の幹を這い廻っている様な気持がして、我ながら妙に凄くなって来ます。でも、その凄さが、何の因果か、彼にはゾクゾクする程嬉しいのです。

こうして、数日、彼は有頂天になって、「屋根裏の散歩」を続けました。その間には、予期にたがわず、色々と彼を喜ばせる様な出来事があって、それを記す丈けでも、十分一篇の小説が出来上る程ですが、この物語の本題には直接関係のない事柄ですから、残念ながら、端折って、ごく簡単に二三の例をお話するに止めましょう。