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やねうらのさんぽしゃ
屋根裏の散歩者
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年8月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,862 字 · 57 页
、第4水準2-78-60)が苦い薬だということも、三郎はよく知っていましたが、仮令苦くとも分量が僅かですし、尚お其上に砂糖でも混ぜて置けば、万々失敗する気遣いはありません、誰にしても、まさか天井から毒薬が降って来ようなどとは想像もしないでしょうから、遠藤が、咄嗟の場合、そこへ気のつく筈はないのです。
併し、薬がうまく利くかどうか、遠藤の体質に対して、多すぎるか或は少な過ぎるかして、ただ苦悶する丈けで死に切らないという様なことはあるまいか。これが問題です、成程、そんなことになれば非常に残念ではありますが、でも、三郎の身に危険を及ぼす心配はないのです。というのは、節穴は元々通り蓋をして了いますし、天井裏にも、そこにはまだ埃など溜っていない。ですから、何の痕跡も残りません。指紋は手袋で防いであります。仮令、天井から毒薬を垂らしたことが分っても、誰の仕業だか知れる筈はありません。殊に彼と遠藤とは、昨今の交際で、恨みを含む様な間柄でないことは、周知の事実なのですから、彼に嫌疑のかかる道理がないのです。いや、そうまで考えなくても熟睡中の遠藤に、薬の落ちて来た方角などが、分るものではありません。