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やねうらのさんぽしゃ

屋根裏の散歩者

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年8月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,862 字 · 57 页

青空文庫

いつか入れ場所をよく見て置いたので、探すのに骨は折れません。でも、流石に、胸がドキドキして、脇の下からは冷汗が流れました。実をいうと、彼の今度の計画の中、一番危険なのはこの毒薬を盗み出す仕事でした。どうしたことで遠藤が不意に帰って来るかも知れませんし、又誰かが隙見をして居ないとも限らぬのです。が、それについては、彼はこんな風に考えていました。若し見つかったら、或は見つからなくても、遠藤が薬瓶のなくなったことを発見したら――それはよく注意していればじき分ることです。殊に彼には天井の隙見という武器があるのですから――殺害を思い止まりさえすればいいのです。ただ毒薬を盗んだという丈では、大した罪にもなりませんからね。

それは兎も角、結局彼は、先ず誰にも見つからずに、うまうまと薬瓶を手に入れることが出来たのです。そこで、遠藤が便所から帰って来ると間もなく、それとなく話を切上げて、彼は自分の部屋へ帰りました。そして、窓には隙間なくカーテンを引き、入口の戸には締りをして置いて机の前に坐ると、胸を躍らせながら、懐中から可愛らしい茶色の瓶を取り出して、さてつくづくと眺めるのでした。