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やねうらのさんぽしゃ

屋根裏の散歩者

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年8月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,862 字 · 57 页

青空文庫

止宿人達はもう皆寝て了ったと見えて、あたりは森閑と静まり返っています。その中で、マッチの棒に浸した清水を、用意深く、一滴一滴と、瓶の中へ垂らしていますと、自分自身の呼吸が、悪魔のため息の様に、変に物凄く響くのです。それがまあ、どんなに三郎の変態的な嗜好を満足させたことでしょう。ともすれば、彼の目の前に浮んで来るのは、暗闇の洞窟の中で、沸々と泡立ち煮える毒薬の鍋を見つめて、ニタリニタリと笑っている、あの古の物語の、恐ろしい妖婆の姿でした。

併しながら、一方に於ては、其頃から、これまで少しも予期しなかった、ある恐怖に似た感情が、彼の心の片隅に湧き出していました。そして時間のたつに随って、少しずつ少しずつ、それが拡がって来るのです。

MURDER CANNOT BE HID LONG, A MAN'S SON MAY, BUT AT THE LENGTH TRUTH WILL OUT.

誰かの引用で覚えていた、あのシェークスピアの不気味な文句が、目もくらめく様な光を放って、彼の脳髄に焼きつくのです。この計画には、絶対に破綻がないと、かくまで信じながらも、刻々に増大して来る不安を、彼はどうすることも出来ないのでした。