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やねうらのさんぽしゃ
屋根裏の散歩者
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年8月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,862 字 · 57 页
折角下宿屋を替えて、新しい人達に接して見ても、一週間たつかたたない内に、彼は又しても底知れぬ倦怠の中に沈み込んで了うのでした。
そうして、東栄館に移って十日ばかりたったある日のことです。退屈の余り、彼はふと妙な事を考えつきました。
彼の部屋には、――それは二階にあったのですが――安っぽい床の間の傍に、一間の押入がついていて、その内部は、鴨居と敷居との丁度中程に、押入れ一杯の巌丈な棚があって、上下二段に分れているのです。彼はその下段の方に数個の行李を納め、上段には蒲団をのせることにしていましたが、一々そこから蒲団を取出して、部屋の真中へ敷く代りに、始終棚の上に寝台の様に蒲団を重ねて置いて、眠くなったらそこへ上って寝ることにしたらどうだろう。彼はそんなことを考えたのです。これが今迄の下宿屋であったら、仮令押入れの中に同じような棚があっても、壁がひどく汚れていたり、天井に蜘蛛の巣が張っていたりして、一寸その中へ寝る気にはならなかったのでしょうが、ここの押入れは、新築早々のことですから、非常に綺麗で、天井も真白なれば、黄色く塗った滑かな壁にも、しみ一つ出来てはいませんし、そして全体の感じが、棚の作り方にもよるのでしょうが、何となく船の中の寝台に似ていて、妙に、一度そこへ寝て見たい様な誘惑を感じさえするのです。