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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
木暮理太郎『山の憶い出 上』。同一底本的分册已合并为一书。收入:笛吹川の上流(東沢と西沢)、奥秩父の山旅日記、釜沢行、秩父の奥山、利根川水源地の山々、秋の鬼怒沼 、美ヶ原、木曽駒と甲斐駒、黒部川奥の山旅、黒部川を遡る 、針木峠の林道 、春の大方山、三国山と苗場山、八ヶ峰の断裂 。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 页
を予想した為の崇高でもない。全く山の色の深さのみから生ずる崇高である。山に雪が深くなるに連れて此の豊富な色彩は次第に其量を減じて来る。二月から三月にかけて白雪山谷を埋めた頃が、最も色彩の乏しい時であるのは云う迄もない。
十月は麦蒔の畑打ちに忙しい。男も女も皆仕事に出る。頬冠りの男の中に交って赤い襷の女も一緒に礫を打っている。振り上げる鍬の刃先がキラリキラリと光る向うには、秩父の山々が美しく聳えている。昼に弁当とお茶を持って其処に行くと、皆が畔に腰を掛けて食事を始める。立てて置いた鍬の柄に赤蜻蛉が止って、その尻っぽの先が高い山の巓とすれすれになっている。何か羽虫を見付るとすういと飛んで行く、そしてスミスの飛行よりももっと巧妙に一つくるりと宙返りを打って復たすういと戻って来る。秩父山は依然としてこの小さな活動の舞台に美しい背景を与えて、夫が日毎に繰り返される間に、山の色の深い秘密というようなものが、子供心の何処かの隅に朧げながらも印象の痕を残し止めて、何かの機会を捉えては急激に鮮明の度を増して行くらしい。
十二月に入ると薪取りや木の葉掻きが始まる。寒い赤城颪に吹かれ冷い朝霜を踏んで凍えた体を、焚火に暖めてからゆっくり仕事に取懸る。