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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)

山の憶い出 上

木暮 理太郎

木暮理太郎『山の憶い出 上』。同一底本的分册已合并为一书。收入:笛吹川の上流(東沢と西沢)、奥秩父の山旅日記、釜沢行、秩父の奥山、利根川水源地の山々、秋の鬼怒沼 、美ヶ原、木曽駒と甲斐駒、黒部川奥の山旅、黒部川を遡る 、針木峠の林道 、春の大方山、三国山と苗場山、八ヶ峰の断裂 。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 页

青空文庫

それが次第に白味を帯びて来ると、初めて電光の火柱が地上に向って頻りに突立つ。ドス黒い色をした低い雲が四方から何時ともなく湧き出して其方へ駆けて行く。忽ち水晶簾を捲き下ろしたような雨脚が、此時まで頭の上で騒乱している雲の運動を余所に湛然と控えていた秩父山の濃藍色の肌に白く立ったと見る間に、谷を埋め峰を越えて、連嶺の半にさし懸った頃には、後の方は早くも碧空を顕わして、奇峭な両神山の姿がちぎれちぎれの断雲の間から望まれる様になる。この大夕立が秩父山を通り過ぎて、東の地平線上に銀の縁りを着けたような一塊の雲となって、東京の空あたりに余勢を逞しうするのは、三時間も経った後である。私は夕立が秩父山を通り過ぎるのを見る毎に、其山の長大なることを嘆賞せずにはいられなかった。

東上州は東京湾の中等潮位から僅に五十米の高さを有するに過ぎない平野ではあるが、試に路傍に立って南方武蔵野の平原に眼を放つと、低い地平線上には遥として展望を遮ぎる何物もない。其視界の尽くる所に軽い一抹の雲烟のようなものがふわりと浮んでいる。此の夢のような夫とも分らない薄い藍色の山は、恐らく秩父入間の郡境に亘る飯盛峠の附近であろうと思う。