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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
木暮理太郎『山の憶い出 上』。同一底本的分册已合并为一书。收入:笛吹川の上流(東沢と西沢)、奥秩父の山旅日記、釜沢行、秩父の奥山、利根川水源地の山々、秋の鬼怒沼 、美ヶ原、木曽駒と甲斐駒、黒部川奥の山旅、黒部川を遡る 、針木峠の林道 、春の大方山、三国山と苗場山、八ヶ峰の断裂 。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 页
われ信の駒ヶ岳を攀ぢて、天竜川のほとりなる宮田に下り、伊那部の宿に仮寝の夢を結びもあへず、明くれば雨を冒して十余里の道を馳せ、行き暮れて頼む蔭なき深山の奥に岩が根を枕として、心細くも唯独り一夜を明さむとしたりしを、思の外の宿とれるさへあるに、老いたる人は可愛きわが初孫の旅より帰りたるを迎ふらむ如く、まめやかに労り慰め、幼き者はさながらおのが同胞の面もちして、右より左より睦び寄るなど、世にも情ある人の真心に旅の心も慰められて、嬉しともうれしかりしは、忘れもえせぬ八月十七日、甲斐の駒ヶ岳に登らんとて、こゝに宿りたる折のことにてぞありし。
寝覚の里では蚊帳を釣らず、涼しさも身に適して能く眠れたが、伊那部では蚊が多い上に蒸し暑くて、疲れた身にも夢は快く結べなかった。明くる十七日は予想した通り果して曇っていた。しかし歩く身には曇天の方が楽である。甲斐駒のことを聞いても唯一人知っている者がない、高遠へ行ってお聞きなさいという。天竜川を渡り三峰川に沿うて、高遠に着いたのは午前九時頃であったろう。町の入口のつきあたりに木立の茂った森が見えたので、其処が城跡かと思ったが、そうではなかった。