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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)

山の憶い出 上

木暮 理太郎

木暮理太郎『山の憶い出 上』。同一底本的分册已合并为一书。收入:笛吹川の上流(東沢と西沢)、奥秩父の山旅日記、釜沢行、秩父の奥山、利根川水源地の山々、秋の鬼怒沼 、美ヶ原、木曽駒と甲斐駒、黒部川奥の山旅、黒部川を遡る 、針木峠の林道 、春の大方山、三国山と苗場山、八ヶ峰の断裂 。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 页

青空文庫

夫を手繰って下を覗き込むと、谷も狭しと拡がった大雪渓が涯もなく続いている。遥か下の右側に山の肋骨が赭色の大懸崖を押し竪てているあたり、雪の上に五、六の人影が動いていたが、間もなく崖の後に隠れた。小黒部鉱山の新道は其辺から雪渓を離れて、横に山腹を辿るのであろう。

峠の道から四、五間南に行って、西側へ下り込んだ処に野営した跡がある、私達も其処へ天幕を張って泊ることにした。今宵はどうでも雪を溶して用いなければなるまいと心配したが、雪渓を少し下った左側に水を得られたのは仕合せであった。世の中に何が嫌だといって、しらあえと、雪を溶した生温かい水をさも勿体ない様にして、鍋も米も碌に洗わないで炊いた飯程いやなものはないと思っている。山の旅にしらあえが付物でない事は、私に取ってはせめてもの幸福である。

温かい夕食を済して、疲れた体を天幕の中に横たえた。が、如何した訳か今夜はいつものように山と私の心とがしっくりと合わないのは情なかった。山は冷い背中を此方に向けて「知らないよ」と言っているような気がする。私の心は華やかな夕栄の色が急に褪せて了った西の空のように暗く暗く沈んで行った。