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にじ
彩虹
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1946(昭和21)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,898 字 · 28 页
「違う違う、そんなことじゃない」
宗之助は突っ放すように笑う。
「……百のものを百に切廻すのは個人の家政で、百のものを千にも万にも活かして働かすのが政治というものだ、しかしこんなことはいま云ってもしようがない、近いうちにその証拠を見せてやる、政治がどういうものかという証拠をな」
そしてそのあとで必ず、
「桃園の娘の返辞を早くたのむぞ」
と、くどく念を押すのだった。
ある日、下城して来る途中、めっきり春めいて来た海の色に誘われて、ふと桃園へ立ち寄った。まだ日の高い時刻で客もなく、海の見える二階座敷へ通って茶を求めた。……この家は茶だけの客もよく来るので、菓子もなかなか凝った物を作る。殊に「鶯」という名のものが美味で、伊兵衛は酒のあとでさえよく口にした。
さえの母親が茶と菓子を運んで来て、先月むすめの招かれた礼を述べて去ると、間もなくさえが縫いかけの着物を持って上って来た。ちょっと肩へ掛けてみて呉れと云う。
「どうするんだ」
「お丈が拝見したいんですの、裄は大丈夫だと思うのですけれど、なんですかお丈がちょっと……」
「なんだ母はまたそんなものを頼んだのか」
「わたくしからお願い申したのですわ」