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にじ

彩虹

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館 、1946(昭和21)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,898 字 · 28 页

青空文庫

たしかだ。繰返し考えた結果、伊兵衛の掴み得たものはそれだけでしかなかった。

翌日まだ早く、九時まえという時刻に宗之助が訪ねて来た。あがると先に母の部屋へはいり、活溌な声で暫らく話していたが、やがて、

「ああ庭の梅がずいぶん大きくなりましたね」

と、云いながら伊兵衛の居間へやって来た。

「たのみがあるんだ」

彼は座につくとすぐそう云いだした。

「……明日から御政治向きの記録類を調べたい、御納戸、金穀、作事、港、各奉行所の記録方へ資料を揃えるよう、五老職の名で通達して貰いたいんだ」

「それは御墨付が無くてはできないだろう」

「そんなことはない、五年寄役には随時に記簿検察の職権がある筈だ」

「だがそれは事のあった場合に限る」

「事はあるよ」

宗之助は笑いもせずにそう云った。

「……国家老交替という大きな事が迫っている、理由はそれで充分だ、たのむ」

「謀るだけは謀ってみよう」

「いやいけない、是非とも必要なんだ、それも明日からということを断わっておく」

押付けるというのではない、自分の意志は必ず行なわれるという確信のある態度だった。そして伊兵衛が返辞をするのを待とうともせず、急に破顔しながら第二のたのみだと語を継いだ。