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かげをふまれたおんな
影を踏まれた女
岡本 綺堂
「講談倶楽部」1925(大正14年)9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,608 字 · 23 页
「それでは私にも祈祷の仕様がない。」
突き放されて、弥助も途方にくれた。
「では、どうしても御祈祷は願われますまいか。」と、彼は嘆くように言った。
「お気の毒だが、わたしの力には及ばない。しかし、折角たびたびお出でになったのであるから、もう一度ためして御覧になるがよい。」と、行者はさらに一本の蝋燭を渡した。「今夜すぐにこの火を燃やすのではない。今から数えて百日目の夜、時刻はやはり子の刻、お忘れなさるな。」
今から百日というのでは、あまりに先きが長いとも思ったが、弥助はこの行者の前でわがままを言うほどの勇気はなかった。かれは教えられたままに一本の蝋燭を頂いて帰った。
こういう事情であるから、おせきの婿取りも当然延期されることになった。あんな行者などを信仰するのは間違っていると、要次郎は蔭でしきりに憤慨していたが、周囲の力に圧せられて、かれはおめおめそれに服従するのほかはなかった。
「夏のうちにどこかの滝にでも打たせたらよかろう。」と、要次郎は言った。彼は近江屋の夫婦を説いて、王子か目黒の滝へおせきを連れ出そうと企てたが、両親はともかくも、本人のおせきが外出を堅く拒むので、それも結局実行されなかった。