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かげをふまれたおんな
影を踏まれた女
岡本 綺堂
「講談倶楽部」1925(大正14年)9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,608 字 · 23 页
四
前から話しておいては面倒だと思ったので、夫婦は娘にむかって何事も洩らさなかった。四つ(午後十時)には店を閉めることになっているので、今夜もいつもの通りにして家内の者を寝かせた。おせきは二階の三畳に寝た。胸に一物ある夫婦は寝たふりをして夜のふけるのを待っていると、やがて子の刻の鐘がひびいた。それを合図に夫婦はそっと階段をのぼった。弥助はかの蝋燭を持っていた。
二階の三畳の襖をあけてうかがうと、今夜のおせきは疲れたようにすやすやと眠っていた。お由はしずかに揺り起こして、半分は寝ぼけているような若い娘を寝床の上に起き直らせると、かれの黒い影は一方の鼠壁に細く揺れて映った。蝋燭を差し出す父の手がすこしく顫えているからであった。
夫婦は恐るるように壁を見つめると、それに映っているのは確かに娘の影であった。そこには角のある鬼や、口の尖っている狐などの影は決して見られなかった。
四
夫婦は安心したようにまずほっとした。不思議そうにきょろきょろしている娘を再びそっと寝かせて、ふたりは抜き足をして二階を降りて来た。
あくる日は弥助ひとりで再び下谷の行者をたずねると、老いたる行者はまた考えていた。