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かげをふまれたおんな

影を踏まれた女

岡本 綺堂

「講談倶楽部」1925(大正14年)9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,608 字 · 23 页

青空文庫

二

子供らの歌う声々が、おせきの弱い魂を執念ぶかくおびやかした。

二

その以来、おせきは夜あるきをしなかった。ことに月の明かるい夜には、表へ出るのを恐れるようになった。どうしても夜あるきをしなければならないような場合には、つとめて月のない暗い宵を選んで出ることにしていた。世間の娘たちとは反対のこの行動が父や母の注意をひいて、お前はまだそんな詰まらないことを気にしているのかと、両親からしばしば叱られた。しかもおせきの魂に深く食い入った一種の恐怖と不安とは、いつまでも消え失せなかった。

そうしているうちに、不運のおせきは再び自分の影に驚かされるような事件に遭遇した。その年の師走の十四日、おせきの家で煤掃きをしていると、神明前の親類の店から小僧が駈けて来て、おばあさんが急病で倒れたと報せた。神明前の親類というのは、おせきの母の姉が縁付いている家で、近江屋とは同商売であるばかりか、その次男の要次郎をゆくゆくはおせきの婿にするという内相談もある。そこの老母が倒れたと聞いてはそのままには済まされない。誰かがすぐに見舞に駈け付けなければならないのであるが、あいにく今日は煤掃きの最中で父も母も手が離されないので、とりあえずおせきを出してやることにした。