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かげをふまれたおんな

影を踏まれた女

岡本 綺堂

「講談倶楽部」1925(大正14年)9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,608 字 · 23 页

青空文庫

行者を狐つかいなどと罵っていながらも、今やその影を実地に見せられて、彼はにわかに言い知れない恐怖に襲われた。子供らがお化けだと叫んだのも嘘ではなかった。

要次郎は不意の恐れに前後の考えをうしなって、今までしっかりと握りしめていたおせきの手を振り放して、半分は夢中で柴井町の方へ引っ返して逃げた。

その注進に驚かされて、おせきの両親は要次郎と一緒にそこへ駈けつけてみると、おせきは右の肩から袈裟斬りに斬られて往来のまん中に倒れていた。

近所の人の話によると、要次郎が駈け出したあとへ一人の侍が通りかかって、いきなり刀をぬいておせきを斬り倒して立ち去ったというのであった。宵の口といい、この月夜に辻斬りでもあるまい。かの侍も地にうつる怪しい影をみて、たちまちに斬り倒してしまったのかも知れない。

おせきが自分の影を恐れていたのは、こういうことになる前兆であったかと、近江屋の親たちは嘆いた。行者の奴が狐をつけてこんな不思議を見せたのだと、要次郎は憤った。しかし誰にも確かな説明の出来るはずはなかった。ただこんな奇怪な出来事があったとして、世間に伝えられたに過ぎなかった。