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かれがころしたか
彼が殺したか
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年1~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页
なり有力だった事は疑いありません。
事件が予審を離れた頃、私は弁護人として被告人にはじめて会う事を許されました。私は被告人を見て、第一にその美しさに驚かされたのです。なるほど道子ほどの美人が、愛人としてえらぶに少しも不思議はないと思いました。刑務所に収容されてからも、大して健康には変りないと見え、元気で青春の美しさが満ち満ちて居ました。私は一体美しい青年に対しては大抵好意をもつ事が出来る男なのですが、今大寺を見て、特にその感が深かったのです。私は今までの事実にも不拘、此の男があの大罪を犯す筈はないと感じました。法律家としては、決して顔はあてにならないものだ、否、虫も殺さぬような人が却って大犯罪を行う事があるとは重々知っては居ながらも、何となく、この男に好意がもてたのでした。
私はまず、私を彼の為に頼んだ某貴族の事を話し、その人の為にもつまらぬ嘘を云ってはいけないと云う事、それから私自身がどれ程の好意を持って居るかを告げ、私の為にも是非ほんとうの事を云わなければいけないという事を力説し、そうして法律で許されて居る範囲内に於て、出来るだけ詳しく事情を聴取しようと試みたのでした。