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かれがころしたか
彼が殺したか
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年1~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页
私の空しき努力は今や、瀕死の二人が叫んだ言葉の解釈一点に向けられたのです。結局その中、仁兵衛だけが調べられる事になりましたが、此の証人訊問の結果もやはり不利益でありまして、仁兵衛は予審廷で云ったことを、再びくり返したにすぎませんでした。
私は裁判長の許しを得て直接に、証人は道子の言を以て愛人の名を叫んだようには思わなかったかという事をたずねたのですが、仁兵衛はあくまでも、自分に対して訴えるように叫んだと思うと主張して居りました。
道子が「大寺」とは云わずに「一郎」と云った事に就て、私は主力をむけたのですが、道子が平常大寺の事を大寺さんと云わず一郎さんと呼んで居たと云う事実が、仁兵衛の口からはっきりと云われたので、最早、之以上追及する方法はなかったのでした。
もはや一点の疑も許されませぬ。凡ての人の言は大寺一郎が殺人者なる事を指示して居ます。而も、動かす事の出来ない証拠は、被告自身の自白であります。
私はさきに述べたように被告人は或いは公判廷に於て、その自白を飜すかも知れぬという事を考えて居たのです。而も結果は右のような有様となってしまいました。