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かれがころしたか
彼が殺したか
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年1~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页
大寺一郎の場合はどうでしょう。此の事件には小田家に他から侵入したものがない事は明かであり、又仁兵衛その他二人の女中が真犯人ではあり得ない場合であります。大寺が仮にこの二人の女中の中いずれかを恋して居たとしても、その女の犯罪はかくしおおせぬ場合でありますから、之は考えられないのです。彼がかばって居ると見らるべき犯人の存在は想像する事は出来ませぬ。彼は愛する女の不名誉をかばって居るとは思われませぬ。否、かばうどころか、彼が最も愛して居たと思われる婦人の事は右述べた通り完膚なき迄に、不遠慮に自白し、屍に鞭って居る有様です。
以上の如く考え来れば、大寺一郎の自白は虚偽であるという理由はないものと見なければなりませぬ。而もいう事に極めて筋道が立って居る事を思えば、彼の脳に狂いが来たとも考えられませぬ。(此の点に付いては裁判所はぬかりなく精神鑑定をして居ります)
扠公判は何等の波乱もなく進行し、審理を終りました。検事は直ちに論告を試みましたが、それはこの場合、殆ど誰もが予期し得るような極めて峻烈なものでありました。検事はまず、事実は極めて明瞭なる事を述べ、ついで、斯の如き犯罪を行って、なお且つ天地に恥ずるを知らざる被告人の厚顔無恥を罵った結果、法律の許す範囲の極刑を求めたのであります。