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かれがころしたか

彼が殺したか

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年1~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页

青空文庫

「ええ、そうかも知れないわよ」

之をきいた時の清三の表情は、何とも形容のしようのない複雑なものであった。

次の瞬間に恐ろしい事が起った。

憤怒の声と悲鳴とが一時に爆発した。俺が驚いて清三をとめにかかった時、彼は既に道子の右胸を突き刺した。はじめて事の真剣味を知った道子が悲鳴をあげて悶えまわるうちに、

「おのれ、悪魔め!」

と叫ぶより早く、俺の止めるひまもなくナイフは彼女の心臓の上を更に突き刺したのであった。

俺があわてて抑えようとすると、清三は自身悪魔の如き形相を以て俺に斬りかけようとしたが、不意に、苦しそうにあっと云って胸をかきむしり始めた。と、ずるずると自分の床の方に仆れて行ったが、うむという苦しそうな呻き声を発してかっと喀血すると一緒に、前かがみに完全に仆れた。俺が驚いて、後から助け起そうとすると、恐ろしい血だらけの口から俺に対するあらゆる呪いを浴びせたが、見ると、右手にナイフを立ててもって居たと見え、仆れる時に無惨にもそのきっさきが胸にささったらしく、右の胸から血がほとばしり、ナイフは着物にもつれて身体にひっかかって居る。

俺は凡ての判断を失った。