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かれがころしたか

彼が殺したか

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年1~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页

青空文庫

若しそうとすれば、此の俺の復讐は余りにひどすぎたことになるが……

道子! お前はほんとうに俺を愛していたのではないか? 云ってくれ、云ってくれ、俺は死なねばならぬ身なのだ。

おお、そうだ、お前が最後に云った俺の名? 一郎という名、なるほどお前は俺に呼びかけたのではないことを俺は知っている。然し、愛するお前が瀕死の境に云った一言でも、この俺が聞きのがしたと思うか。

俺は知っているぞ、道子! 道子! お前はあのときほんとうを云ってくれたんだ。清三が、

「大寺……大寺が……」

と云ったのに対し、お前はそれが耳に入るや否や、最後の努力を以ておっかぶせるように云ったのだ。

「いいえ……一郎さんではあり……」

俺はきいた、俺はきいた、全身を耳にして俺は愛するお前の叫びをきいた。

外の人々はこの前後の言葉を聞き落したのだ。そしてききなれた俺の名ばかりをきいたのだ。

そうとすればお前は俺を愛していたのだね、おお、そうとすれば……おおもしそうだとすれば……

悪魔よ、来れ、悪魔よ、汝の翼に俺を抱きしめよ。俺の胸に残っている人間らしき血を悉く吸いとってくれ※

俺は女を憎む、道子を憎む、道子は夫に忠実だったんだ。