轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
吉川英治『忘れ残りの記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:忘れ残りの記、年譜。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,050 字 · 383 页
簿記用の帳簿に見られるあの薄い藍と赤線を刷るのである。刷るというよりあれは罫線機械にかけて引くといった方が適切かもわからない。それと製本の膠仕事、単行本物の“折り”などがここの作業だった。
本工場の倉庫の二階がその罫線部で、暗い梯子段を上がると膠を煮るあの臭いが顔をつつむ。仕事場は畳敷きで、藍と赤のインキの汚染はわかるが畳の色は無いのである。年増の女工員が三人、次郎さんと呼ばれる角刈りの美い男ぶッた若い熟練工と四十がらみの主任と、男もぼくを入れて三人。それだけの部であった。
朝は七時就業だが、ぼくだけは六時半に来なければならないと云われた。皆の来るまでに、下の小使部屋から火ダネを貰って、膠鍋の火鉢やら湯沸かしの下に火を入れ、お茶の支度もしておけとの事であった。そんな勤めは不平でも何でもなかった。けれど午後になると毎日ここの部員がアミダ籤というのをやり、ぼくがお茶受けを買いにゆく。豆餅とか、せんべいとか、生菓子とか。それを喰べ喰べ五人の大人達が、毎日飽きもせぬ猥談に笑いこける。その猥談もぼくには決して厭ではない。むしろ異様な好奇心で聞いていた。がしかし、この休み時間が苦痛だった。