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あくりょうものがたり
悪霊物語
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」講談社、1954(昭和29)年9月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,207 字 · 17 页
恍惚として、時のたつのも忘れて、這いまわった。
「すばらしい。これはすばらしいですよ。ぼくはこんな美しいものに初めてさわりました。これは何という微妙な曲線でしょう。いったい、どんな法則から割り出した曲線でしょう。……」
闇の中から、老人のフフという笑い声がした。
「さっきから、もう三十分もたちましたよ。ずいぶんお気に入ったものですね。さア、つぎに移りましょう。もっとお見せするものがあるのです」
闇の中で手をとられて、その場を離れた。四五歩もあるくと、シュウとマッチがすられて、再び蝋燭が輝いた。いそいでうしろを見たが、さっきのふしぎな曲線の物体は見えなかった。老人は用心ぶかく、あの物体に覆いの布をかけてしまったのかも知れない。
「これですよ。この中ですよ」
燭台をかざしたのは、一つの大きな黒い箱の上であった。それは西洋の装飾寝棺に似ていた。そと側の黒い色が漆のように光っていた。
老人は燭台をおくと、またポケットから鍵束をとり出して、その黒い長い箱の錠前をはずした。そして、燭台をかざしながら、その蓋をソロソロとひらいて行った。
蝋燭の光といっしょに、目がチラチラした。