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あくりょうものがたり
悪霊物語
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」講談社、1954(昭和29)年9月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,207 字 · 17 页
箱の中には、白いなめらかなものが横たわっていた。蓋がすっかりひらいてしまうと、それは美しい裸体の女であることがわかった。
蘭堂は愕然として、一歩うしろにさがった。蝋人形というものが、こんな恐ろしい美を持っているとは、思いもよらなかった。ああ、これが生きた人間でなく蝋細工だなんて、そんなバカなことがあるものか。
「お気に入りましたか。美しい女でしょう。これは生きているのですよ」
老人はささやくような低い声で云った。すると、その声が蝋人形に通じたように、美しい瞼がブルブルとふるえて、パッと目をひらいた。蝋細工ではない、ほんとうの目であった。それがじっと蘭堂の顔を見つめていた。蘭堂の皷動が早くなった。逃げ出したいような恐怖を感じた。
伴天連爺さんとはよくも名づけた。彼は伴天連の魔術を心得ているのであろうか。
「ハハハ、大江蘭堂さんは、こんなものに驚く方ではないと思いましたがね。あなた、顔が青くなっていますよ。ハハハハハ、わたしは天下の大江蘭堂をびっくりさせましたね。先生のお書きになる怪談と、わたしの発明した怪談と、どっちが怖いでしょうかね」
爺さんは顔じゅうを、すぼめた提灯のように皺だらけにして、歯の抜けた口を耳まで拡げて、悪魔のように笑っていた。