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じょうき

情鬼

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,393 字 · 35 页

青空文庫

「いいえ。兄個人のですから外務省とは全然関係ございません」

「ではお兄様個人の秘書?」

「はい。そうなんですの。吉岡さんは面白い方で、個人の秘書ではねうちがないからって、御自分の事を秘書官、秘書官って仰しゃいますのよ。吉岡秘書官がなどとね、無論御冗談にですが、それで私達もつい口癖になってしまいましてあの方のことを秘書官と申しますの」

「じゃあお役人さまではありませんのね?」

「はい。それに今度あちらから帰朝いたしました時、初めて連れてまいった人でございます」

「その方、只今でも時々見えられますか?」

「いいえ、兄が亡くなったものですから、自然用事もなくなり、それに伯母がやかましくって――」

「伯母様が?」

「はい。吉岡さんはお美しい方だものですから、ああいう方がいつまでもいらっしゃると目立つからなどと申しましてね」

なるほど久子さんは今独りでいるので、世間の誤解を恐れる。そこで伯母様が心配されるのだと分った。

「吉岡さんはお兄様のお気に入りでしたか?」

「はい。大変気に入って居りました。テキパキした方だものですから。それに頭がよくって、語学が達者なので調法だと申して居りました」