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じょうき
情鬼
大倉 燁子
「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,393 字 · 35 页
「でもあちらがお故郷というわけでもないでしょうにね?」
「何ですか吉岡さんは男には惜しい、余り美し過ぎるといつぞや伯母と私が噂していましたら、兄がそれを聞いて、支那人の混血児にはどうかするとああいうタイプの美男子があると申していましたから、もしかすると混血児なのかも知れません」
それだけの事を訊いて、二人はひとまず小田切邸を辞した。
「吉岡って人、何だか臭いじゃありませんか?」
S夫人は私の問いには答えないで、頻りに何か考え込んでいたが、
「これからちょっとわきへ廻ります。あなたはお先へ事務所へ帰って待っていて下さい」
そう云い捨てると通りがかりの円タクを拾って、さっさと車の中へ入ってしまった。
私は命令通り事務所へ帰って、夫人の帰りを待つ間に、自分の考えをまとめてみようと思ってノートへ書きつけた。
まずこう考えてみる。
吉岡五郎。年齢不明。イタリー人あるいはスペイン人と支那人との混血児。頭はいいが素情のよくない人。才智に長けた美男子。
まず小田切大使に取り入り、令妹と恋仲になる。勿論それは最初からの予定の行動で、結婚とまで運べばもうしめたもの、財産も分けてもらえるだろうし、失業の怖れもなさそうだ。