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じょうき

情鬼

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,393 字 · 35 页

青空文庫

それにあれほど厳重になって居りますので、そんなことの出来るはずもないとは存じますが――、また戯談にそんなことをわざわざ申して来る人もあるまいと思いますので、念のため、お参りにいらして下すった方々の事を詮議してみましたが、その中にちょっと妙に思われる方が一人ございました。いつぞや暴風雨の日がございましたね。二十日ばかり前になりますが――、あの日、あの荒れの真最中に御夫婦連れの方がお見えになって「小田切の親類の者だが、今日故郷へ帰るについて暇乞かたがた参詣に来た、是非納骨堂に案内して欲しい」と申したそうでございます。そこで係りの人はその夫婦者を案内しますと、旦那様の方は入口の扉のところに立っていて管理人と話していたそうですが、奥様は一人で中へ入り遺骨の前に跪いて、長い間すすり泣いていられたと申します。それがまた余り長いので、しまいには旦那様が退屈なすって、欠伸をしながら、煙草を御自分も喫み、管理人にも一本下すったそうでまたその煙草が外国製のものらしく、迚も堪らない佳い香がしたが、吸っているうちに何だか少し頭がぼんやりしてきて、いい気持ちに眠くなった。