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おしみなくあいはうばう
惜みなく愛は奪う
有島 武郎
「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页
お前はいつでも然り然り否々といい切ることが出来ないから。毎時でもお前には陰険なわけへだてが附きまつわっているから。お前は憎まれていい。辱しめられていい。悪魔視されていい。然しお前の心の隅の人知れぬ苦痛をそっと眺めてやる人はないのか。お前が人並に見られたい為めに、お前自身にさえ隠そうと企てているその人知れぬ苦痛を一寸でも暖かく触ろうという人はないのか。偽善者よ、私は自身偽善者であるが故によくそれを知っている。義人のすぐ隣に住むと考えられている罪人(己れの罪を知ってそれを悲しむ人)は自分の強味と弱味との矛盾を声高く叫び得る幸福な人達なのだ。罪人の持つものも偽善者の持つものも畢竟は同じなのだ。ただ罪人は叫ぶ。それを神が聞く。偽善者は叫ぼうとする程に強さを持ち合わしていない。故に神は聞かない。それだけの差だと私には思える。よきサマリヤ人と悪しきサドカイ人とは、隣り合せに住んでいるのではないか。偽善者なる私は屡※(二の字点、1-2-22)他人を偽善者と呼んだ。今にして私はそれを悲しく思う。何故に私は人と人との距てをこんなに大きくしようとはしたろう。
こう云ったとて私は、世の義人に偽善者を裁く手心をゆるめて貰いたいと歎願するのではない。