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おしみなくあいはうばう

惜みなく愛は奪う

有島 武郎

「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页

青空文庫

男女の愛は本能の表現として純粋に近くかつ全体的なものである。同性間の愛にあっては本能は分裂して、精神的(若し同性間に異性関係の仮想が成立しなければ)という一方面にのみ表現される。親子の愛にしても、兄弟の愛にしても皆等しい。然し男女の愛に於て、本能は甫めてその全体的な面目を現わして来る。愛する男女のみが真実なる生命を創造する。だから生殖の事は全然本能の全要求によってのみ遂げられなければならぬのだ。これが男女関係の純一無上の要件である。然るに女性は必要に逼れるままに、誤ってこの本能的欲求を智的生活の要求に妥協させてしまった。即ち本能の欲求以外の欲求、即ち単なる生活慾の道具に使った。そして男性は卑しくもそれをそのまま使用した。これが最も悪いことだったと私は云うのだ。これより悪いことが多く他にあろうか。

楽園は既に失われた。男女はその腰に木の葉をまとわねばならなくなった。女性は男性を恨み、男性は女性を侮りはじめた。恋愛の領土には数限りもなく仮想的恋愛が出現するので、真の恋愛をたずねあてるためには、女性は極度の警戒を、男性は極度の冒険をなさねばならなくなった。