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おしみなくあいはうばう
惜みなく愛は奪う
有島 武郎
「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页
それは或る場合には他人にとって迷惑なことであろうとも、その人々に取っては致命的に必要なことなのだ。主義の為めには生命を捨ててもその生命の緊張を保とうとするその心持はよく解る。
然しながら私には生命を賭しても主張すべき主義がない。主義というべきものはあるとしても、それが為めに私自身を見失うまでにその為めに没頭することが出来ない。
やはり私はその長い廻り道の後に私に帰って来た。然し何というみじめな情ない私の姿だろう。私は凡てを捨ててこの私に頼らねばならぬだろうか。私の過去には何十年の遠きにわたる歴史がある。又私の身辺には有らゆる社会の活動と優れた人間とがある。大きな力強い自然が私の周囲を十重二十重に取り巻いている。これらのものの絶大な重圧は、この憐れな私をおびえさすのに十分過ぎる。私が今まで自分自身に帰り得ないで、有らん限りの躊躇をしていたのも、思えばこの外界の威力の前に私自身の無為を感じていたからなのだ。そして何等かの手段を運らしてこの絶大の威力と調和し若しくは妥協しようとさえ試みていたのだった。しかもそれは私の場合に於ては凡て失敗に終った。そういう試みは一時的に多少私の不安を撫でさすってくれたとしても、更に深い不安に導く媒になるに過ぎなかった。