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おろかないちにち

愚かな一日

豊島 与志雄

「太陽」1920(大正9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,045 字 · 29 页

青空文庫

いくらとめても、原稿用紙を枕頭から離さないで、何か二三行書いては考えていますのよ。でもやはり頭に力がないと見えて、その紙を破きすててはまた寝てしまいます。」

「今からそんな無理をしてはいけませんね。」

「ですけれど余り気に逆っても悪いと思いまして、私は傍についていながらどうしていいか困ってしまいますの。」

「それはお困りでしょう。私からも、暫くは静にしているように勧めてみましょうか。」

「ええどうぞ。」

「そして河野君はやはり小説でも書こうとしているのですか。」

「何だか感想みたいなものですの。書いてはすぐに破きすてますから、私にはよく分りませんけれど、つぎ合わして読めるようなものは、私そっとしまっています。後で何かの役に立つかも知れないと思いまして。」

「それはいいことをなさいましたね。河野君も喜ぶでしょう。病中の実感は後でふり返っても、なかなかよくは浮ばないものです。その時の直接の感じが一番尊いものです。」

「でもごく少ししかありませんのよ。あなたにならお目にかけても宜ろしいんですけれど、河野はいつも、書きかけのものを人に見られるのが嫌いなものですから、どうか悪く思わないで下さいな。