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おろかないちにち
愚かな一日
豊島 与志雄
「太陽」1920(大正9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,045 字 · 29 页
瀬川が帰っていった後、彼は前のような数行を認めたのである。
その時のことを思い浮べると、彼は何とも云えない淋しい気になった。隣室の会話はなお途切れ勝ちに続いていた。然しもうそれに耳を傾けるのも億劫になってきた。じっと眠ったふりをしているのが堪えられなくなった。「どうして自分は妻と瀬川との話を盗み聞きする気になったろう?」とも自ら反問してみた。すると「馬」ということが頭に浮んできた。訳の分らぬもどかしさが胸に感じられた。
彼は寝返りをした。
その音をききつけてか、妻はすぐにやって来た。
「あなた、あなた、お眼覚めなすったの? 今瀬川さんが来て被居してよ。」と彼女は云った。
彼はその声に初めてはっきり眼を覚ましたような様子をした。
「そう、瀬川君が?」
「ええ、先刻から来ていらしたけれど、あなたがよく眠っていられるものですから……。」
彼が何とも答えないうちに、瀬川はもう其処にはいって来た。
「やあ、随分よく眠るね。」
「だいぶ前から来てたのかい。」
「いや、つい今しがただったが。」
彼は瀬川の顔をじっと見た。健康そうな顔の色、綺麗に分けた頭髪、大胆でどこか皮肉らしい眼付、頑丈な鼻、剃り立ての蒼みがかった※(「臣+頁」