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おろかないちにち

愚かな一日

豊島 与志雄

「太陽」1920(大正9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,045 字 · 29 页

青空文庫

、第4水準2-92-25)。彼は其処に身を起そうとした。

「そのままがいいよ。」と瀬川は云った。

彼はまた頭を枕につけた。何で起き上ろうとしたのか、自分にも分らなかった。そして心の底にうろたえてる何物かを感じた。

「気分はどうだい?」

「大変いい。」と彼は答えた。「暖い時なら少し位起き上っていいと医者も云ってる位だから。」

「然し今が一番大事な時だよ。」

「だから用心してるよ。」

「どうだか。」

「実際だよ。」

「そうだね、原稿を書いたりなんかしてさ。」

「ああ、そうか。あんなものは君、退屈凌ぎに三四行ずつ書きちらしてはそのまま破き捨てるんだから、身体に障りはしないさ。」

「然し君の初めのつもりでは、少し長いものを書くつもりでペンを執るんだろう。そういう頭の努力がいけないんだよ。」

「君の云う意味は僕にも分る。未来が大事だから現在を用心しろというんだろう。それはそうなくてはならないことだ。然し長く病気をして寝ていると、その現在を用心するということが、違った意味に感じられてくる。未来のために現在のことは多少犠牲にしなければいけないというのが、健康な時の解釈だ。然し病んでいる時には、未来のために現在のことを出来るだけ大切にしなければいけない、というような気持ちになる。