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おろかないちにち

愚かな一日

豊島 与志雄

「太陽」1920(大正9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,045 字 · 29 页

青空文庫

人の心のうちには、何かが絶えず根を下している。その根を下ろしてゆくものを注意深く見守っていなければ、いい未来はやって来るものではない。僕は此処に転地して来てから、毎日庭の方をばかり、庭の些細な変化を、自然に眺め暮したものだ。すると或る朝、今まで真黒な裸の土だと思っていた処が、一面に緑色の苔に蔽われてるのを見出して、自ら驚いたことがある。何にもないと思っていた処に、何事も行われていないと思ってるうちに、実は苔が次第に根を下して繁殖していたんだ。それに気付いた時には、もうどうにもならないほど苔が一面に生じていた。僕達の心にもそういうことが行われるものだ。知らず識らずのうちに種々なものが根を下してゆく。それを気付く時にはもうどうにも出来ないほどその根が深くなっている。切迫つまったはめというのは、そういう状態の時をいうのだ。そしてその推移がひそかに行わるれば行われるほど、人の注意を逃れることが多ければ多いほど、益々危険が大きくなる。だから未来をよくせんがためには、現在を、殆んど無意識的に行われる現在の心の推移を、深く注意していなければいけない。現在を軽蔑してはいけない。