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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

せっかくの電気レンジも、いっこうに魅力を感じない。

「いそがしいから、またあとで」

百々子がそういうと、千々子さまは、むずかしい顔になって、

「なにが、忙しいの……あなたの持っている餌箱には、ボッタと芋羊羹が入っているだけでしょう。パパは戻りのない空の摺鈎で、餌なしの引っ掛け釣をしているんだから、あなたに用があるわけはないじゃありませんか。そんなところで猫になっていないで、早くいらっしゃい」

石田氏は鈎をあわせて、竿を起すと、

「嫌なものを、無理に連れて行くことはない」

といいながら、プールの水に鱗波をたてて右往左往する錦手の鯉の子供を、上手に、玉網ですくいにかかった。

「パパなら、なお結構よ……ケチンが出来ましたから、見にきてちょうだい」

「おれたちはいいから、早く行って、アメリカの国旗でも出すこったな」

「国旗、国旗って、うるさいのね……冗談に、アメリカの国旗でも出したいほどうれしいといったのが、そんなにお気にさわったのかしら」

上の芝生の道から、賢夫人が降りてきた。

「千々子さん、なにを、大きな声をだしているんです、あなたらしくもない」

例によって、様子ぶったことをいいながら、石田氏のそばにしゃがみこんだ。