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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

「冗談ばっかし……あなたのような見栄坊が、そんなみっともないことをなさるはずもなし、あたしにしたって、させもしませんが、錦鯉の教育はあとにして、ヘンリ清水に、礼ぐらいいっていただきたいんです」

「土建屋が、じぶんの都合で工事をしたのに、礼をいうことなどいるものか」

「でも、骨を折って、いろいろやってくれたんですから」

石田氏は、むっとした顔で口髯を撫でていたが、我慢ができなくなったのだとみえて、癇癪玉を破裂させた。

「いろいろやったには、ちがいない。調理場だけという約束なのに、誰に断わって、あんな勝手な真似をした。洋館のあのザマはなんだ、キャバレかナイト・クラブみたいにしてしまって……お前も同類だろう。あそこで、なにをはじめようというんだ。それから聞こう」

わが家の洋館は、明治の中頃、先代が、滞日中のフランス人の建築家に依嘱してつくったもので、どの部屋も、アンピール式の椅子や、丈の低いしゃれた家具で統一され、それなりに、古雅な美しさを保っていたものだったが、それらは、ひとつ残らず、ピカピカ光る、アメリカン・タイプのチューブの家具にかえられてしまった。先代が自慢していた、クロトンの葉を彫った階段の親柱は、根こそぎとりはらわれて、磨ガラスの丸い灯入りの柱になり、美しい鋳金の手摺の裏に、ぞっとするような、毒々しい色