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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
北原白秋「婦人公論 第四十三巻第一号」1958(昭和33)年1月号<br>高村光太郎「婦人公論 第四十三巻第二号」1958(昭和33)年2月号<br>萩原朔太郎「婦人公論 第四十三巻第三号」1958(昭和33)年3月号<br>釈迢空「婦人公論 第四十三巻第四号」1958(昭和33)年4月号<br>堀辰雄「婦人公論 第四十三巻第七号」1958(昭和33)年7月号<br>立原道造「婦人公論 第四十三巻第八号」1958(昭和33)年8月号<br>津村信夫「婦人公論 第四十三巻第九号」1958(昭和33)年9月号<br>山村暮鳥「婦人公論 第四十三巻第十一号」1958(昭和33)年10月号<br>百田宗治「婦人公論 第四十三巻第十二号」1958(昭和33)年11月号<br>千家元麿「婦人公論 第四十三巻第十三号」1958(昭和33)年12月号<br>島崎藤村「婦人公論 第四十三巻第六号」1958(昭和33)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 页
山口の村の突ッ端で、雑木林をうしろにしたこの小屋の中の光太郎は、そこから出て小学校でお話をし、村の青年に講演をこころみ、えらい先生になっていた。自分でえらい顔をしなくとも、村人は高邁な文士としてかれを畏敬していた。
かれはここの雑木林にさわぐ風や、雪の凍みる枯草に心をとらわれ、智恵子への夜々の思慕にもえた。六十歳の人間には六十歳の性慾があるものだ。六十年も生きて見た数々の女体の美しい開花は、この山小屋の中でさんらんと匂い、かれは夜半に耳をかたむけてなんらかの声に聞き惚れ、手は女のすべすべした肉体のうえを今夜もまた、さまよいをつづけた。妻に先に死なれるほど、妻がうやうやしく美しく見えることはない、かれが智恵子への何十篇に超える詩を書いていても、それだけでは書きつくせるものではない、智恵子はかれの性慾の中に生きているのだ、この恐ろしい深まりはかれの性慾が涸れ切ってしまうまで、不測の継続を意味する。だからかれが死ぬまで、智恵子の肉体がかれのお腹のうえにあって、かれの胃と腸をあたためていた。かれが死ななかったら智恵子も死なない。小説家田宮虎彦もそのふたりとない妻をうしなって小説を書きつづけたが、それは田宮の中にいる夫人が死なないからかれは書けたのだ。