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あるおんな
或る女
有島 武郎
1(前編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,981 字 · 295 页
葉子は紅くなった目を少し恥ずかしげにまたたかせながら、いろいろと慰めた。
「何ねこう老いぼれちゃ、こんな稼業をやってるがてんでうそなれど、事務長さんとボンスン(水夫長)とがかわいそうだといって使ってくれるで、いい気になったが罰あたったんだね」
といって臆病に笑った。葉子がこの老人をあわれみいたわるさまはわき目もいじらしかった。日本には伝言を頼むような近親さえない身だというような事を聞くたびに、葉子は泣き出しそうな顔をして合点合点していたが、しまいには木村の止めるのも聞かず寝床から起き上がって、木村の持って来た果物をありったけ籃につめて、
「陸に上がればいくらもあるんだろうけれども、これを持っておいで。そしてその中に果物でなくはいっているものがあったら、それもお前さんに上げたんだからね、人に取られたりしちゃいけませんよ」
といってそれを渡してやった。
老人が来てから葉子は夜が明けたように始めて晴れやかなふだんの気分になった。そして例のいたずららしいにこにこした愛嬌を顔いちめんにたたえて、
「なんという気さくなんでしょう。わたし、 あんなおじいさんのお内儀さんになってみたい……だからね、いいものをやっちまった」